コワーキング&出先での執筆に最適!『滞在型図書館』の現在と今後
フリーライターが取材での外出中に執筆や軽作業をする時は、カフェや有料コワーキングスポットを利用するのが一般的です。しかし、あまり席代にお金を使いたくない!という時に助かるのが、無料でPC利用もできる閲覧席を備えた図書館。近年の図書館は電源・Wi-Fi・照明付きの立派な閲覧席を設ける施設も多く、仕事が捗るスペースとして重宝します。
当記事では全国の図書館を数多く運営している株式会社図書館流通センター(以下『TRC』と記載)の広報室長・尾園清香(おぞの さやか)さんと、高円寺図書館の館長・圡橋明奈(どばし あきな)さんを取材。普段は見えにくい図書館運営のウラ側、図書館と仕事を結びつけたライフスタイル、コワーキングでオススメの図書館利用方法など役立つ情報を紹介します。
目次
日本全国の図書館がTRCのデータ&サービスを活用

TRCは1979年(昭和54年)に創業し、図書館へ送る書籍・雑誌のデータベース化を行っています。例えば図書館の蔵書検索サービスで『村上春樹』と入れたら、村上春樹の関連書籍情報が一覧で出てきますが、ああいったデータを一件ずつ作っている会社です。
「今まで累計で約440万件をデータ入力しました。それを公共図書館の約90%が活用しています」
また、埼玉県新座市と福岡県久留米市に大きな物流拠点を備え、出版社からの書籍仕入れ、フィルムやICタグの貼付け、各図書館への配送・納入など、図書を扱う様々な事業を担当。これにより図書館側は、新刊を受け入れてすぐ貸し出し可能となるので、業務をぐっと短縮・効率化できるのです。
「毎年出版される本は約6万点。それを選んで取り寄せて、フィルムやタグを貼って、実物とデータの紐づけ入力をして……という作業を図書館側でやっていたら、人的リソースが全く足りなくなってしまいます。これら全てを当社はワンストップで担当し、図書館側の負担を削減しています」
現在の書店や出版業界は非常にシビア。本屋の商品は売れなければすぐ返品されるので旧刊が残りにくく、出版社も小売も売れる見込みの薄い本を扱いたがりません。その点、TRCは図書館用の本を日本全国に3,300~3,400程ある公共図書館へ配布するため、出版社へ1,000部単位の注文を掛けることも一般的。出版社側はまとまった売上を得られ、図書館側も必要な蔵書を確保できます。
2005年から「地域の礎」図書館づくりに参入

TRCは1996年(平成8年)に図書館運営受託業務を開始。全国で公共図書館599館、学校図書館31自治体・917校・大学2校、博物館他21施設を運営しています(※2026年6月現在)。その中には北区の『ジェイトエル』、世田谷区の『梅丘図書館』、そして今回取材した杉並区の『高円寺図書館』など近年の新施設も含まれます。
「大きく伸びたきっかけは2005年の指定管理者制度(※地方公共団体の指定する法人その他団体が公共施設を管理する制度)の導入です。当社の営業担当があちこちの図書館へ行くときに『図書館のことを良く知ってるし、運営もできるのでは?』って、よく言われたらしくて(笑)」
運営にあたっての根底理念は「図書館は地域の礎」。TRCが図書館の新設やリニューアルに携わる時は、提案書の作成にあたって自治体に綿密なヒアリングを行い、地域と二人三脚で事業を進めているそうです。
「市民の方々が図書館を使い、図書館を通じて自分たちの地域問題を解決していく場でありたいと思っています。各自治体はそれぞれ地域ならではの特徴や悩みがあり、一方で少子高齢化など全国共通の悩みもあります。そうした物事を解決する場として図書館が機能するのが理想ですね」
こうした図書館は宮城県で2001年に開館した『せんだいメディアテーク』を契機に、大都市圏に限らず全国で増加。屋上庭園を配置した兵庫県の『神戸市立垂水図書館』、円型の室内空間が荘厳な『石川県立図書館』などが有名です。
「図書館って大都市圏の中心より、その周辺自治体の方が広くて使いやすいことが多いんですよ。ミュージアムやカフェも併設して、閲覧席や交流スペースをたくさん作って、公園とも隣接させて……とやっていくと、どうしても土地や面積が要りますから」
滞在型図書館はフリーランスにとってメリットたくさん

冒頭で触れたとおり、従来に比べ働き方の変化が進み、図書館のフリースペースなどを普段の仕事に活用するフリーランスやノマドワーカーも増えています。こうした仕事と図書館の関わりについて、TRCの考えを尾園さんに質問しました。
「現在の図書館は単に本を読む・借りるだけでなく、生活の一部として長居したくなる『滞在型図書館』としての活用が進んでいます。図書館のある自治体からも、多様な方々の居場所・地域交流という機能を求められる事が大半ですね」
尾園さんいわく、TRCでは小学生層から現役社会人、高齢者まで幅広い世代へ図書館利用の拡大を目指しているとのこと。仕事終わりのビジネスパーソンに向けて開館時間を夜間まで延長するほか、ビジネス系の関連本も取り揃えています。
「図書館は知的財産に誰でも無料でアクセスできます。購入すると費用がかさむ専門的なビジネス書や高価な画集なども、図書館では気軽に好きなだけ読むことができます。自分が納めた税金が確かに地域に還元されていると、書架を見ていると実感しますね」
滞在型図書館のメリットを、最も大きく享受できるのがフリーランスです。通常のコワーキングは利用時間毎に料金が加算されますが、図書館は公の施設のため長時間利用しても無料。しかも机やソファー席など、空いていれば好きな場所(フリーアドレス)で仕事もできます。平日昼など空いている日時を狙って行きやすく、必要資料を館内で探したり、気分転換に雑誌を読んだり周辺散策したりも自由。ある意味では理想の環境ではないでしょうか。
「私自身も時折、こうした場所を利用しています。休憩中に雑誌や本を読みふけってしまい、気がついたら何時間も経ってしまって……なんてケースもあるのは注意点ですね(笑)」
図書館が企画した読書会や映画会なども定期開催されることがあり、同好の士として参加者同士の名刺交換がしやすい点も、常に営業機会を欲するフリーライターには見逃せません。図書館を平時の仕事で上手く活用できれば、リフレッシュ・情報収集・外部交流を兼ねたワーク&ライフを構築できそうですね。
子育て世代やフリーランスにも優しい杉並区立高円寺図書館

滞在型図書館の一例として、今回は杉並区立高円寺図書館の中を圡橋館長に案内して頂きました。ここは旧杉並第八小学校の跡地を活用して2025年4月に開館。同年8月に開園した『すぎはち公園』と隣接し、『コミュニティふらっと高円寺南』『高円寺東保育園』との複合施設『ふらっとすぎはち』として親しまれています。

2F・児童書コーナーはコンクリート打ちっぱなしの室内に明るい木の棚や什器が並び、温かい雰囲気。閲覧席は室内テーブルのほか、明るい窓際に向いたもの、背の低いクッションなど、子どもの目線に合わせた席も用意されています。

靴を脱いで上がる『おはなしのへや』では、親子で読み聞かせを楽しめるおはなし会を定期開催。子供用のトイレと授乳室も併設されており、子育てをしながらフリーランスとして働いている世帯が親子で訪れるのにも便利そうです。
「特に土日は親子連れが大変多いですね。親子で楽しんでいただけるよう、趣味や料理など家族に役立つ一般書籍も、一部ピックアップして児童書のフロアに配置しています」

上にある3F・一般書コーナーは、窓側に広々した閲覧席を多数配備。Wi-Fi・電源・ライト完備で、本を読んだり調べ物をしたり、もちろんコワーキングにも使用可能です。

「全席に電源がついているので、学生さんの勉強でも、フリーランスの方の作業でも使用可能です。一部には利用者カードをお持ちの方が時間制申し込みで利用する席もありますが、平日午前中なら、席も比較的空いているのでおすすめですね」
なお、3Fは斜めのジグザグになった天井が特徴。これは高円寺の夏の名物「阿波おどり」で着用する編み笠と繋がるイメージなのだとか。1950~1960年代の杉並区内を写した白黒写真などが並ぶミニギャラリーもあるなど、杉並区や高円寺という地域性がにじみ出たフロアにもなっています。
「ふらっとすぎはち」内には様々な活動に使えるラウンジや部屋も

「ふらっとすぎはち」の長所は、予約不要で利用できる館内ラウンジの広さと種類。1Fのものは公園側に大きな窓を設けていて採光が良く、雑誌コーナーも兼ね、軽食可能でコーヒーの自販機もあり、ブックカフェのような雰囲気です。窓の外に見える公園側デッキと屋内のフローリングが同じ高さに見え、室内空間が公園と直結している印象もあります。

B1Fにも温かい雰囲気のラウンジがあります。ヤング・アダルト図書のコーナーとなっており、特に中学生~高校生向けの色が濃いフロアです。

なお、「ふらっとすぎはち」のB1Fには複数の多目的室などが設置されており、地域住民向けに様々なイベントで活用されているのだとか。とりわけ大きな第2多目的室は完全にミニ体育館のような規模。夏の高円寺名物・阿波おどりの練習にも使用されています。
「実際『阿波おどり室』って呼ばれていますね(笑)。太鼓とか鳴り物とか、どれだけ響かせても外に漏れない防音仕様の設計です。これだけの面積と設備で阿波おどりが練習できる場所って、実は高円寺だと貴重なんですよ」

「ふらっとすぎはち」では本格的なシンセサイザーやドラムセットなどを用意した楽器練習室もあり、1時間たったの300円で利用可能。バンド練習や楽曲収録に活用されています。
「こうしたサービスも中高生向けですね。中学~高校で図書館利用の頻度が減りがちなので、そこをフォローしています。基本的に多世代使ってもらいたいっていうのが前提なので、赤ちゃんからお年寄りまで交流と滞在の場となるようにしています」
杉並区高円寺図書館が入る「ふらっとすぎはち」は、元・旧杉並第八小学校という立地と歴史を活かし、杉並区の歴史や文化と結びつきながら、仕事、文化、防災、教育、イベントあらゆる意味で地域連携のハブとなるスゴイ施設。用事で杉並区を訪れる際は、是非ここにも立ち寄って仕事をしたり、余暇を楽しみたいと思わせてくれる取材体験でした。
図書館は「本のショールーム」
今後の新しい滞在型図書館のなかでも、TRC・尾園さんが特に注目しているのが、東京都八王子市に2026年10月開館予定の『桑都の杜(そうとのもり)』。桑の葉を用いた養蚕や絹工業で栄えた往時の八王子をイメージした広大な公園内に、周りの環境と一体化した形で図書館やミュージアムが併設される計画で、完成を心待ちにしているそうです。
「ほかにも、都内は昭島市の『アキシマエンシス』、中央区の『本の森ちゅうおう』など、コワーキング向けの環境もありつつ様々な魅力を持つ図書館が数多くあります。例えば『北区立中央図書館』は1919年に旧陸軍が建てた工場を転用していて、赤レンガと鉄骨の重厚な作りと、ガラス張りのモダンな外観が特徴的な図書館です」
また、図書館はコワーキングや地域交流の機能を拡充させつつも、その中心軸にあるのはあくまでも本。大事なポイントは読んで楽しい本、人生の参考になる本、装丁が素敵な本などとの「偶然の出会い」だと、尾園さんは最後に話していました。
「AmazonなどWebサイトでは基本的に自分の求める範囲しか目に入りませんが、図書館ですと今まで知らなかった、マニアックで『刺さる』本にリーチすることも珍しくありません。新刊だけではない幅広いラインナップを誇る図書館は、司書が届ける本との出会いの場で、いわば『本のショールーム』。様々な本に触れて、その中から自分の魂の一冊みたいなのを選べれば、それが一番ですよね」

「それに、先にお話しましたように、図書館の建物には地域自治体ごとの特色や見所、もしくは地域が目指す未来像などが強く反映されます。出張や旅行に行かれる時は、旅のついでにその土地ごとの図書館も見てほしいですね、それで帰ってきた後は地元の図書館も訪れてみてください」
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