書籍に関わりたいライターが理解しておくべきこと。さとゆみさんに聞いた、ブックライティングの現実と可能性
WebメディアのSEO記事が読まれにくくなり、寄稿していたメディアが閉鎖されることも珍しくない昨今。「長く残る仕事がしたい」と、書籍に関わる仕事を志望するライターもいます。しかし書籍の初版部数も減少しており、明るい未来が約束されているとは言えません。書籍に挑戦したいライターが心得るべきことは? 『本を出したい』の著者で、50冊以上の書籍に携わってきた佐藤友美さん(通称さとゆみさん)に、出版業界の現実と可能性を聞きました。
「本だから影響力が大きい」は思い込みかもしれない
- —— SEO記事が読まれにくくなったことや、Webメディアの閉鎖が相次ぎ、「書籍に関わりたい」と考えるライターもいます。書籍はWebより影響力が大きく、長く残るというイメージがあるようです。
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その前提は、一度疑ってみた方がいいかもしれません。今、商業出版の初版部数は3,500〜6,000部程度で、重版がかかるのは全体の2割ほど。つまり残り8割の書籍は、初版の半分も売れずに終わります。
1年かけて作って、1,000部しか売れないということも、よくある話です。書籍の方が影響力があると思われがちですが、必ずしもそうとは言い切れません。年間何万点と出版される中で、大きな影響力を持てる本はほんの一握りです。
- —— ブックライターの経済的な面はいかがでしょうか。
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ブックライターの報酬には様々な形態がありますが、印税方式の場合、本が売れないと食べていけません。本が売れても、ギリギリ食べていけるかどうか。
たとえば、3カ月かけて執筆した書籍の報酬が、30〜40万円ということもあります。1カ月あたりに換算すると、約10万円。これでは、ブックライティングだけで生活していくのは至難の業です。
私の周りのライターも、ブックライティングから離れる人が増えています。中には「本の仕事が好きだから、BtoBのクライアントワークを収入の柱にしてブックライティングを続けている」という人もいるほどです。
とはいえ、時給換算では割に合わなくても、書籍に関わりたいというライターが一定数いるのも確かです。
それでも、本にしかできないことがある
- —— 報酬面のお話をうかがうと、厳しい現実がよくわかります。一方で、それでもブックライティングに携わりたいという人もいらっしゃるのですね。佐藤さんが書籍の仕事に関わり続けてきた理由は何でしょうか。
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著者の人生が、丸ごと変わる瞬間を見てきたからです。
私がブックライターとして担当した中で、最も印象に残っているのが、ファッションスタイリストの山本あきこさんの本です。当時の彼女は、雑誌の花形である芸能人やタレントのスタイリングではなく、ヘアカタログに登場する一般の人のスタイリングを手がけていました。
知人の編集者から「ファッション本を作りたいから、面白い人を紹介してほしい」と言われたとき、私はすぐに彼女の名前を挙げました。当時まだ珍しかったパーソナルスタイリングを提供していて、私も周囲の友人も絶賛していたからです。一般の方をいかにかわいく、きれいに見せられるかを考えていたのが、山本あきこさんだったのです。
編集者もパーソナルスタイリングを体験し、翌日、山本さんがコーディネートした服で出社したそうです。すると、周囲から「どうしたの、今日の服すごくおしゃれ」と声をかけられたと言います。その日のうちに、編集者から「本にするから企画書を書いて」と連絡が来ました。
私と山本さんの2人で夜中まで話し合い、「見出し」になるような言葉を50〜100個書き出しました。一晩で企画書を仕上げて提出したところ、約1週間後に企画会議を通過しました。
- —— そこからどのように本が生まれ、山本あきこさんの人生が変わっていったのでしょうか。
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彼女が感覚的におこなっていたコーディネートを分析し、なぜそうするのかを言語化していきました。「こっちのバッグの方がかわいいじゃん」という感覚を、なぜかわいいのかと読み解き、汎用性のある法則に変えていきました。
本が出版された後、山本さんの人生は大きく動きました。パーソナルスタイリングを言語化したことで、活躍の場が広がり、彼女の理念がより多くの人に伝わりました。スタイリストの養成講座を主宰して、人を育てる立場にもなりました。その卒業生たちも次々と活躍し、多くの人を幸せにしています。
たった一冊の本が、著者だけでなく、その先にいる多くの人の人生まで変えていく——。それを目の当たりにしたとき、本にしかできないことがあると確信しました。
- —— 制作の過程で、書籍に向き合ううえで大切にしていることはありますか。
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著者の人生がかかっているという自覚を忘れないことです。
ブックライターは、著者が何年もかけて積み上げてきたコンテンツを、本という形にする仕事です。売れなければ、著者に将来訪れるはずのチャンスを潰してしまう可能性もあります。だからこそ、ライターとして自分にできる最善を尽くしたいと思っています。
妥協は、著者への裏切りになりかねません。私はそういう気持ちで、本に向き合ってきました。生半可な気持ちでは務まらない仕事だと感じています。
書籍に関わりたいと思うなら、まずその覚悟があるかを自分に問いかけてみるとよいかもしれません。
「本で人生が変わった」と言われる仕事
- —— 最後に、書籍に関わりたいと思っているライターへのメッセージをいただけますか。
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冒頭で、本だからといって必ずしも読者への影響力が強いとは言えない、とお伝えしました。しかし、読者から「この本を読んで人生が変わりました」という言葉を何度もいただいてきました。自著はもちろん、ブックライティングで携わった書籍でも、著者にそうした言葉が届く場面を見てきました。
それは、まとまった分量の文章を読んでもらえる書籍だからこその化学反応なのかもしれません。Web記事も数多く手がけてきましたが、読者から「人生が変わった」と言われることはほとんどありませんでした。
山本あきこさんのように、著者の人生が大きく変わることもあります。そうした瞬間に立ち会えるのも、本の仕事ならではの素晴らしさです。著者にとっても、読者にとっても、そしてライターにとっても、それだけ意義のある仕事です。
甘い世界ではありませんが、他のどんな仕事にも代えがたい経験が待っています。
PROFILE
佐藤友美(さとう・ゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道生まれ。テレビ制作会社を経て文筆業へ。日本初のヘアライターとして活躍し、書籍ライターとして50冊以上の制作に携わる。著書に『書く仕事がしたい』『本を出したい』(ともにCEメディアハウス)など。さとゆみビジネスライティングゼミ主宰。
TEXT:湯浅邦枝