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原稿料、いくらですか? お支払いはいつですか?
このひとことが聞けずに、仕事を受けてしまったことはないでしょうか。ライターなら、一度は覚えがあるかもしれません。
2024年11月に「フリーランス法」(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されて、もうすぐ2年。じつはこの法律、発注する側に義務を課すものです。ところが、その発注者のほうが中身をよく知らない、というケースがまだまだ見られます。
だったら、受ける側のわたしたちが知っておけばいい。法律は、相手を責めるための武器というより、言いにくいことを言うための「盾」になってくれます。
今回は、ライターによくある3つのトラブルを、フリーランス法の観点から見直してみます。
まずは数字から見てみましょう。
フリーランス協会が2026年6月に公開した「フリーランス白書2026」(2025年11月調査、1,426人が回答)によると、取引先との会話にフリーランス法が出たことがある人は21.7%。4人に3人は、一度も話題にしたことがないことになります。
一方で、施行後に「これって違反では?」と感じたことがある人は28.5%いました。ところが、そのとき法律を根拠に自分から説明や交渉をした人は27.5%。いちばん多かったのは「特に何もしていない」(46.9%)でした。

ただし、動いた人の結果を見ると、41.2%が「解決した」と答えています。黙っていれば何も変わりませんが、声を上げた人の4割は解決しているのです。
発注する側はどうでしょうか。施行前の2024年に国が行った調査では、フリーランス法の内容を「知らない」と答えた発注者は54.5%にのぼりました。法律の義務を負う側の半分以上が、中身を知らなかったわけです。
そして、「知らなかった」では済まない例も出てきました。2025年6月、公正取引委員会はこの法律に基づく初めての勧告を、小学館と光文社に出しています。理由は、報酬額や支払期日などの条件を示さなかったこと、そして期日までに原稿料を払わなかったこと。2026年6月にはKADOKAWAも、ライターら113人との取引をめぐって同じ内容の勧告を受けました。
令和7年度(2025年度)に公正取引委員会が勧告や指導をした件数は1,552件。業種別では、出版やWebメディアを含む「情報通信業」が37.0%で最多でした。フリーランスが取り戻したお金は、総額1,734万円にのぼります。
行政はすでに動いています。足りないのは、当事者であるわたしたちの「知っている」と「使っている」なのかもしれません。
本題に入る前に、ひとつだけ前提を。フリーランス法は、すべての取引を同じように守ってくれるわけではありません。この法律でいう「フリーランス」は、従業員を雇わずに一人で働く人のこと。個人事業主だけでなく、いわゆる一人社長も、副業で書いているライターも対象です。
そのうえで、発注者がどんな相手か、取引がどれくらい続くかによって、守られる範囲が段階的に広がっていきます。

ポイントは、いちばん基本の「条件の明示」は、相手が誰でも義務だということ。個人の発注者でも、同業のライターからの外注でも、です。
一方で、支払期日のルールや減額の禁止は、従業員がいる(または役員が2人以上いる)発注者が対象です。出版社や編集プロダクション、Web制作会社など、ふだんの取引先の多くはこちらに当てはまるはずです。
「原稿料はあとでご相談させてください」「テーマは取材してから決めましょう」「予算は状況を見て」。条件があいまいなまま、取材日だけが決まっていく。駆け出しのころは特に、仕事をもらえるうれしさが勝って、原稿料を聞けないまま引き受けてしまう。そんな声は、いまもSNSでよく見かけます。そして納品後に示された金額が、想像よりずっと低かった。ここで揉めようにも、最初に聞いていない以上、強くは言えません。
■法律ではこうなっている
フリーランス法第3条では、発注者は仕事を頼んだら「直ちに」取引条件を示さなければなりません。示すべき項目は、主に次のとおりです。
示し方は、紙の発注書でなくてもOK。メールやチャット、SNSのメッセージでもかまいません。まだ決まっていない項目がある場合も、「決められない理由」と「いつ決めるのか」を示す必要があります。「予算は状況を見て」で止まったままでは、発注者は義務を果たしていないことになるのです。
■アドバイス:確認は「法律の手続き」として頼む
条件を聞きにくいのは、相手を疑っているように聞こえるからではないでしょうか。だったら、法律を理由にしてしまいましょう。
「フリーランス法の関係で、報酬額と納期、お支払日をメールでいただけますか」
こう言えば、話題はお金の催促ではなく、相手のコンプライアンスの話になります。発注者が法律を知らなかったとしても、「教えてもらえて助かった」となることのほうが多いはずです。知らないまま違反していたら、困るのは相手のほうです。
もうひとつのポイントは、やり取りを文字で残すこと。口頭で決まった条件も、「本日のお打ち合わせ内容を確認させてください」と改めて会話の内容をメールで送っておけば、それが記録になります。
紙媒体では、「掲載号が出た月の翌々月払い」という支払いサイトが、長く“業界の常識”とされてきました。掲載が延びれば、支払いも延びる。企画が中止になったら、原稿料はゼロ。取材までしたのに、です。Web媒体でも、「公開月の月末締め、翌月末払い」のように、公開日を基準にした支払いはよく見られます。
■法律ではこうなっている
第4条では、支払期日は「発注者が原稿を受け取った日(=納品日)」から数えて60日以内の、できるだけ早い日に決めなければなりません。60日を超える日を決めていたとしても、納品から60日以内には払う必要があります(従業員がいる発注者の場合)。
ポイントは、数え始めが「掲載日」ではなく「納品日」だということ。掲載がいつになろうと、支払期日には関係ありません。
さらに見落としがちなのが、支払期日を決めていなかった場合です。このときは、なんと納品した日そのものが支払期日になります。冒頭で触れた出版社への勧告も、まさにこのパターンでした。支払期日を決めず、納品された日までに原稿料を払っていなかったことが、違反とされたのです。

ボツになった場合も、考え方は同じです。依頼どおりの原稿を納め、発注者が受け取っている以上、掲載しないのは発注者側の事情。原則として、支払いの義務はなくなりません。
■アドバイス:「掲載後払い」と言われたら、納品日から数える
「お支払いは掲載後で」と言われたら、こう返してみましょう。
「フリーランス法で、納品日から60日以内のお支払いが必要になっているかと思います。お支払日はいつになりますか」
なお、編集プロダクションなどを経由した仕事(再委託)には特例があります。発注時に「再委託であること」「大元の発注者(出版社など)の名前」「その発注者から編プロへの支払期日」の3点が示されていれば、編プロからの支払いは、その支払期日から30日以内でよい、というものです。ただし、数え始めるのは出版社の支払いが予定されていた日で、実際に入金された日ではありません。編プロ経由の案件で「出版社から入金されてから払います」と言われたら、この3点が示されているか確かめてみてください。示されていなければ、通常どおり納品日から60日以内がルールです。
どれも、フリーランス仲間から一度は聞いたことのある話ではないでしょうか。
■法律ではこうなっている
1カ月以上続く取引では、第5条でいくつかの行為が禁止されています。連載や継続案件はもちろん、単発でも発注から納品までが1カ月以上あれば対象になります。
ライターに関わりの深いものは、次の3つです。
ただし、勘違いしやすい点もあります。次回以降の単価について話し合うこと自体は、違法ではありません。「AIを使うなら単価を見直したい」という相談は、交渉の範囲内です。
一方で、すでに発注済みの仕事を後から値下げするのは減額にあたります。また、十分な話し合いもなく、著しく低い単価を一方的に押しつけるなら、買いたたきにあたるおそれがあります。法律は、何でも跳ね返せる魔法ではありません。どこまでが守られる範囲なのかを知っておくことも、立派な自衛策です。
■アドバイス:修正の範囲は「最初に」決めておく
終わらない修正を防ぐいちばんの方法は、ケース1と同じく、最初の条件に書いてもらうことです。
「修正は2回まで」「構成確定後の大幅な変更は別途お見積もり」と業務の内容に入れておけば、それを超える依頼には交渉ができます。見積もりを出しているのであれば、備考欄に記載しておくのがおすすめです。
あわせて確認しておきたいのが、権利の扱いです。著作権を譲渡させる場合は、その範囲も取引条件として示すことが求められています。二次利用や転載の範囲が、知らないうちに広く設定されていないか。こちらも最初に見ておきましょう。
ここまで読んで、「理屈はわかるけど、言ったら次から仕事が来なくなるかも」と思った方も多いはずです。その不安は、残念ながら正しい感覚です。
法律はたしかに整ってきました。でも、現実のフリーランスは、いまも発注者に対して弱い立場にあります。きれいごとで終わらせないために、まずはその事実を確かめておきましょう。
■「次の発注」は、法律では守れない
フリーランス法には、違反を公正取引委員会などに申し出たことを理由に、取引を減らしたり打ち切ったりすることを禁じる規定があります(第6条)。
ただ、発注者には、次の仕事を頼む義務はありません。打ち切りの30日前予告(第16条)も、対象は6カ月以上続く取引だけ。単発や不定期の案件で、それきり声がかからなくなったとしても、それが申出への報復だと証明するのは簡単ではありません。
しかも、白書2026によると、フリーランスがいちばん稼げている仕事の獲得経路は「人脈」、次いで「過去・現在の取引先」です。紹介や口コミで仕事がつながる世界では、「面倒なライター」という評判ひとつが、その取引先だけでなく、その先の仕事まで閉ざしかねません。取引先をひとつ失うことの重みは、会社員が上司に意見するのとはわけが違います。
■声を上げても、解決するとは限らない
冒頭の白書の数字を、もう一度見てみます。行動した人のうち「解決した」のは41.2%。一方で、「解決しなかった」人も45.8%いました。勇気を出して声を上げても、その半数近くは報われていないのです。
相談先はあります。
ただし、110番の弁護士があなたの代理人として、相手と交渉してくれるわけではありません。和解あっせんも、相手が応じなければ成立しません。行政への申出も、発注者への指導にはつながりますが、結論が出るまでには時間がかかります。
数万円の原稿料のために、資料をそろえ、相談し、相手とのやり取りを重ねる。その間も、ほかの原稿の締切は待ってくれません。時間と気力を天秤にかけて、泣き寝入りを選ぶ人がいるのも無理はありません。
■法律は「揉める前」に使う
法律は、何でも跳ね返せる万能の盾ではありません。トラブルになってから持ち出しても、関係が壊れたうえに、お金も戻らないことがあります。
だからこそ、いちばん法律を使うべきタイミングは、トラブルになる前。つまり、条件をもらう段階なのです。揉めてから「違反です」と言うのは対立ですが、受注時に「法律の関係で条件をメールでください」と頼むのは、ただの確認です。
それでも言い出せないときは、無理をしなくてかまいません。ただ、やり取りの記録だけは必ず残しておきましょう。いざというときに相談先へ持ち込めるのは、記録がある人だけです。
■使えるひとこと集
コツは、相手を責めないこと。「法律違反ですよ」ではなく、「法律ではこうなっているようです」。主語を自分ではなく法律にするだけで、ぐっと言いやすくなります。
フリーランス法は、施行から3年がたった時点で、法改正も視野に入れた見直しをすることになっています。施行3年となる2027年11月をめどに、この法律の中身があらためて議論されるわけです。
その材料になる調査が、いま行われています。フリーランス協会の「フリーランス法見直しのための実態調査」です。
取引先で法律がきちんと守られているか。制度や運用で見直すべき点はどこか。当事者の声を集め、「フリーランス白書2027」として公表したうえで、政府や関係省庁への政策提言に使われます。
協会がこれまでに行ってきた実態調査には、累計5万6,000人を超えるフリーランスが回答してきました。その声は、フリーランス法の成立や、フリーランス・トラブル110番の設置にもつながっています。
知らないと損をする。そして、黙っていると、見直しは発注する側の声だけで進んでしまうかもしれません。
「条件を聞けなかった」「支払いが遅かった」「結局、言い出せなかった」。そんな経験こそ、届ける価値があります。
回答は15分ほど。締切は10月31日です。
(フリーランス協会 特設ページへ移動します)
法律は、知っている人の味方です。まずは次の受注から、ひとつずつ確かめてみてください。
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