「日本で最も読まれるライター」に聞いた、ライターが生き残るためにやるべきこと。
「ライターデビューはしたけれど、スキルアップできているのだろうか?」「もっと仕事や収入を増やしたいけど…」「いっそ、ジャンル替えしたほうがいいのかな?」ライターを続けるほどにつきまとう、もやもやとした悩みや迷い。今回お届けするのは、そんな悩めるライターさんのためのインタビューです。書籍の累計発行部数100万部超、Web連載はなんと2億PV。日本で最も読まれるライターとして注目されるノンフィクションライター・中村淳彦さんに、ライターが生き残るためのヒントをうかがいました。
1972年生まれ。大学時代よりフリーライターとして活動し、貧困など現代の社会問題を取材して執筆した著作『東京貧困女子』が大ヒット。ドラマ化もされ、話題を呼んだ。さらにビジネス書「悪魔の傾聴」も好評。現在はライティング講座「悪魔の傾聴ライティング」や、Voicyなどの音声発信でも活躍のフィールドを広げている。
生き残るためのヒント①自分の中の「専門性」を再確認する。
——まずライター業界の変化についてお話いただきたいです。生成AIの台頭などが話題ですが。
記事が生成AIで書けたら、企業は依頼しないですよね、たぶん。私はライターの仕事を90年代から始めましたが、当時ライターはすごい人気で、一握りの人しかなれない職業でした。その頃はWebがなくて雑誌があった。バイク専門誌とかファッション誌とかあらゆるジャンルに雑誌があって、そこの編集プロダクションや出版社などでライターを経験して、フリーになるのが昔のライターだったと思います。
そこが、最近ライターを始めた人との違いかも。専門性がない「なんでも書きます」っていうライターは、昔はいなかったはずです。仕事の依頼も企業からではなく、その業界のネットワークから来る。例えばバイク業界だったら、バイクを作る人・売る人から、バイクのことを取材して書くライターまでがそのくくり。まずその業界で専門性を持って有名にならないと、収入も仕事も増えようがない仕事だと思うんですよね。
——では、どんなことをやっていけば、専門性のあるライターになれるのでしょうか。
まずどの視点に立って何のライターをやるか、です。私はアダルトから始めているけれど、そこから貧困に横展開できたし、経済や政治にも行ける。社会で起きている事象って、アダルト産業も、政治も、経済も、教育も、全部繋がっていますから。
自分の立ち位置を決めるには、自分が今まで何をやってきたか、振り返る必要がある。そこで地に足を付けて、経験を積み重ねて専門性を高めていくのがいちばん早い。 自分の経験は、自分だけのものだから。ジャンルを変えても、その分野にはすでに多くのライターがいる。自分はどの分野にいたら勝てるかと考えることが大切です。
生き残るヒントその②取材を操る術「悪魔の傾聴」を身につける。
——現在、ライターもいろんな方が増えていて、取材経験のない方もいます。中村さんの著作「悪魔の傾聴」で書かれている聞きにくい話を聞く技術についてご紹介いただけますか。
例えばカフェの2人席だと、距離が近すぎるから圧迫しちゃって話しにくいはず。でもファミリーレストランの4人席なら2人席とは距離が全く違うから、相手の話す言葉が増える。そうした細かい配慮を積み重ねて、最も情報が取れる環境作りをしていくんですね。そして相手の話をずっと聞き続けていく。
ちゃんと聞けるライターはあまりいないから、それを丁寧に紹介したのが悪魔の傾聴です。あと、取材を経験するほど、相手を受け入れる経験値が上がります。衝撃的な話を聞くとつい反応してしまう人がいるけれど、淡々と聞くこと。これは慣れなんです。受け入れるキャパシティが大きくなると、相手は「この人は分かってくれる」と思って、どんどん話してくれる。例えば親子関係でもそうでしょう。絶対に否定しないっていう信頼関係が伝われば、相手は話すんです。
——1年ほど前から「悪魔の傾聴ライティング」講座を始められていますが、どのようなものか教えてください。
これは、自分は何をやりたいのかを振り返り、テーマも自分で決めて、自分で取材相手を探して話を聞き、文章にする講座です。一応、ライティング講座だから、こういう風に話を聞いてくださいっていうのは教えますが。結構生徒さんのレベルが高くて、プロのライターよりも上手く書けるのでは、という人もいます。生徒に優秀な人がいるコミュニティとして、刺激し合いながらライティングを勉強する場にもなってきていますね。
生き残るヒント③自分の個性を積み重ねて書く。
——中村さんは「ライターは個性のある文章を作るべきだ」と発信されていらっしゃいますが、その個性とは、具体的にどのようなことでしょうか。
個性って色々あるけど、隣の人が言っているようなこと、つまり正論を書かないことですね。ネットの情報と違って、人から直に聞いた話は、その関係で出てきた情報だから最も重要。一見、芸能人を取材しているライターの方が偉いように見えても、芸能人なんていつでも誰にでも同じことをいう。本来文章って、欲望とか感情が描かれている方が面白いもの。無名の人が経験したドロドロの話が興味深いわけです。
——ライターの個性とは、自分しか持っていない情報と捉えていいのでしょうか。
そう思いますよ。個性ってすぐできるものではなくて、だんだんそうなっていくものです。続けられることが読まれていることだとすると、続ければ続けるほど個性は積み重なるはず。人から言われて取材し、納品して終わりではもったいない。いいネタをしっかりつかんで聞いて書けば、まず雑誌の単発記事から書籍になり、文庫化して、劇場映画化…と爆発していくわけです。全部はそうならなくても、当たるとそうなるから。
仕事をひとつひとつ蓄積していく考え方でやる。面白そうだったら報酬が安くても、バンバン動いて書いた方がいい。
本来のライターとは、やっぱり自分の個性で書く人なんです。生活のために書きながらでも、自分が書きたいものに着手した方がいいと思います。
——それが最終的に、AI時代でも生き残れるライターの条件になるということですね。ありがとうございました。
「悪魔の傾聴」ライティング〜聞いたことを書く新しい文章教室
(毎月第三火曜日19時30分〜)
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