遊び心を取り戻す『えほん思考』がひらく発想の扉
日々の生活や仕事において、「もっと豊かなアイデアを生み出せたら……」と感じることはありませんか?
菊池良さんの『えほん思考』は、子どもの頃に親しんだ絵本から「思考法」を抜き出し、それをビジネスや日常生活にどう応用するかを楽しく学べる一冊です。創造力を引き出し、柔軟なアイデアを生み出すヒントが満載。特にライターやクリエイティブな仕事に携わる人にとっては、ぜひ手に取ってほしい本です。
遊び心を取り入れ、心に余白をつくることで、日常の枠に囚われない新しい視点を発見できるかもしれません。肩の力を抜いて、発想の原点に立ち返る第一歩を踏み出してみませんか?
1987年、東京都出身。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(神田桂一と共著、宝島社)、『タイム・スリップ芥川賞』(ダイヤモンド社)、『ニャタレー夫人の恋人』(幻冬舎)など。脚本、マンガ原作、作詞などの分野でも活動中。
目次
「遊び」を取り入れた発想法が生む心の余裕
『えほん思考』は、大人になるにつれて忘れがちな「遊び心」の大切さを教えてくれます。本書は、紙質にこだわり、透かし模様の「遊び紙」を取り入れることで、絵本のように「触れる楽しさ」をも感じられるつくりになっています。この遊び紙をめくるだけで、幼い頃に夢中になった絵本の世界へと誘われます。あっという間に無邪気な気持ちが蘇り、日常の枠に囚われた凝り固まった思考がほぐれるようです。
このような「遊び心」は、ライターやビジネスパーソンなど、忙しい日常を送る人たちにとっての拠り所にもなると思うのです。特に、行き詰まったときや視点が狭まったと感じるときに指し示してくれる、新たな発想の道。遊び心が生み出す「余白」が、自然な広がりを持つ創造的な空間を提供し、日々の思考に心地よい変化をもたらしてくれます。
絵本的な発想がもたらす日常生活とビジネスへの広がり
『えほん思考』は、絵本の発想をビジネスや日常生活に応用する視点を提供する一冊です。著者の菊池良さんは、2000冊もの絵本を読み込み、その成果を本書に凝縮しました。絵本を題材に選んだ理由は、シンプルな物語から本質的な「思考法」を学べるからです。「はらぺこあおむし」や「100万回生きたねこ」など親しみやすい26冊を取り上げ、それぞれに隠された「核」となる思考法を具体的な事例とともに解説しています。
また、26の「核」に対応するワークが用意されており、読者が実践を通じてその思考法を体感できる構成が特徴です。単なる絵本の紹介にとどまらず、そこから得られる教訓を日常やビジネスにどう活かせるかを丁寧に示している点が、この本のユニークさと言えます。
さらに、本書では「失敗」や「無駄」と思われがちな選択肢に価値を見出す視点も紹介されています。普段とは異なる道を選んだり、新しいことに挑戦したりする中で生まれる意外な発見が、成長や新たなアイデアのきっかけになると説いています。
絵本的なシンプルな視点と失敗を恐れない挑戦の姿勢は、日常や仕事に新しい広がりをもたらしてくれるでしょう。
削ぎ落とすことで見える本質
この本では「本質を見極める手法」について、絵本『んぐまーま』を例としてピックアップしています。『んぐまーま』は、現代美術家の大竹伸朗が絵を描き、詩人の谷川俊太郎が文章を担当している絵本です。赤ちゃんが発する喃語のような「まーま れーあ ぎぇーな ぽーい」など、意味が読み取れないことばで構成されています。ことばが持つふたつの機能、つまり「意味」と「音」のうち、「意味」を削ぎ落とし、「音」だけを残すことで、絵本としての新たな価値が生まれています。
「音」を強調することで、ことばのリズムや響きそのものを楽しむことができます。ことばの「意味」を削ることで、意味に依存しない感覚的な価値が引き出され、ことば本来のリズムや力強さが前面に現れます。
このアプローチは、現代の多機能なサービスや製品が溢れる社会へのメッセージとしても捉えられます。たとえば、ソニーのウォークマンを例に挙げ、「その機能は本当に必要か?」という問いかけがなされます。現代では、さまざまな機能を詰め込むことが重視されがちですが、余分な機能を削ぎ落とすことで、本質を見極める重要性が伝えられています。
この考え方は、文章や表現にも通じるものがあります。余分な要素を取り除くことで、伝えたいメッセージがより鮮明に浮かび上がり、表現が研ぎ澄まされるのです。ライターにとっても、表現を洗練させるための大きなヒントとなるでしょう。
読むたびに新たな気づきが生まれる『えほん思考』
『えほん思考』は、単なる絵本論を超えて、読むたびに新しい気づきが生まれる深みがあります。大人になってから絵本を読み返すと、子ども時代には気づかなかった視点やメッセージが見えてくるように、この本もまた読み手の心境や状況によって異なる解釈が可能です。
仕事で行き詰まったときや、日常に退屈を感じたときにページを開けば、新しい発想へのきっかけが見つかるかもしれません。「絵本にはすべてがあり、ルールだけがない」という著者の言葉通り、思考を解き放つには、絵本は最適なツールと言えるでしょう。
たとえば、『はらぺこあおむし』は、自分自身の欲求に対する新たな視点を私たちに与えてくれます。あおむしが「食べたい」という衝動に忠実に行動した結果、蝶という全く新しい存在へと変わったように、自分の欲求に正直に向き合うことで、予想もしない未来を切り開く可能性があるのではないでしょうか。
出版社:晶文社
著者:菊池良
発売日:2024/8/5
定価:1,870円(税込)