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『猫のダヤン』は1983年に革小物メーカーのシンボルとして生まれた。絵本の累計発行部数は約320万部、アニメやラジオドラマにもなる人気キャラクターで、2023年には誕生から40周年を迎えた。ふわふわの毛並みに、ぴんと伸びたヒゲ、ミステリアスな大きな目。40年もの長きにわたり、人の心を惹きつけるキャラクターを読者に届け続ける作家の池田あきこ氏に、キャラクターやストーリーづくりのコツ、創作の心構えについてお話を聞いた。
ダヤンを書き始めるずっと前から、架空の国を自分の中で作っていたんですよ。もともと私は本を読むのが好きでした。小さい頃から、グリム童話みたいなヨーロッパの世界観に憧れていて、独自の世界を創りたい、と思っていたんですね。この架空の世界の『わちふぃーるど』っていう名称は、高校生くらいの時から考えていました。最初はリスみたいな生き物の名前としてポンって浮かんできました。造語だから意味はないですけどね。
『猫のダヤン』を初めて描いたのは、販売用のダヤンのポスターを作るとき。これまで、版画を彫ったことはあったけど、ちゃんと紙に描くというのは初めてでした。
『猫のダヤン』のモデルはうちにいた猫なんです。叔母が拾ってきた猫で、茶と黒の顔の模様がまるで眼帯をしているみたいで。だから、眼帯を付けたイスラエルの将軍、モーシェ・ダヤンにちなんで『ダヤン』という名前にしたんです。うちのダヤンは、柄が特徴的なので、外見を似せることなく、猫の本質からインスピレーションを得て、彼のキャラクターを作り上げました。
みんな私の描いたダヤンを見て、『怖い』とか『冷たい感じ』、『可愛い』とか色んな感想を持ってくれました。それで、このキャラクターが人の目を引くっていうことを確信しました。
ストーリーづくりは、どういう物語にするか、どういう世界観にするかという骨組みをつくることが大切です。思いついた細かい設定や楽しいアイデアを大切にしたい気持ちは理解できますが、まずはストーリーの土台となる骨組みをしっかりとつくること。オリジナリティのある自分だけの骨組みが完成すれば、創作においてそれはもうゴールが見えたようなものです。
次に、誰を主人公にするかを考えます。絵本も小説も同じだと思うんだけど、音楽のように独自のトーンを奏でるものです。「この本じゃなきゃいけない」という魅力を生み出すには、何か特別なものを表現しなければなりません。その独自性を生み出すのはやはり登場するキャラクター、特に主人公だと思うんです。
また、創作は自分の中にあるものからしか生まれません。実際に見たり聞いたりすることは本当に重要です。私は、愛媛県の大洲市でしか観測されない珍しい現象「肱川あらし」をテレビで知って見に行きました。気温や気象など特定の条件が揃わなければ観察することができない珍しい現象で、現地の人と連絡を取り合ってタイミングを合わせました。上流の大須盆地から肱川沿いに霧が流れてくる様子はまるで白い竜が川を下るようでした。
小説『ダヤンと霧の竜』で登場する霧の竜は、この肱川あらしがモチーフになっているんです。それが、作品の中では、ダヤンを狙って街に襲ってくる台風に対抗するキャラクターになっています。霧の竜がそれ一つで出てきても面白くないから、見方を少し変えて、台風と戦わせる対比の構図にしようと考えました。一つの事象をどう登場させるか、より面白くなるよう構成を練るのも、ストーリーを作る上では大事なことだと思います。
私は、古い風習の残る世界を創作しているから、現実でもできるだけ古いものの残るところに旅をすることが多いんですね。そうすると、自分の価値観とは違う人たちにたくさん出会うんです。
昔、モロッコで皮をなめしている加工場に行った時に、革を薬液に浸けて、それを足で踏んで革をなめすっていう方法をとっている人たちに会ったことがあって。その人たちは、もう50歳くらいになると、薬液で足の骨がボロボロになってしまって、足を引きずって歩くんですよ。普通は、それでいいの?って思うじゃないですか。でも、その人たちの顔の晴れ晴れと明るいことに驚きました。俺たちはずっとこうしてきた、これからもこうしていくんだっていう、恬として恥じないその姿勢に感銘を受けたんですね。
考えていることや正解はみんな同じじゃないということが、本当に素晴らしいことだと思いました。自分と違う価値観の人が、世界中色々なところにいるっていうことに、本当にワクワクします。そういう、自分がワクワクすることを集めるっていうことがアイデアの源になるんじゃないかと思うんですよね。
創作をするときに、自分にはできないかも、なんて不安に思っているようではダメですよ。私は、創作こそ誰にでもできる、って思っています。何せ、考えることにはお金がかからないんだから。私だって、子供の頃に本が好きだったというだけなのだけれど、大人になって、こうして色んなものを作っている。
結局、新しいことに飛び込むときの度胸が一番大切なんじゃないかと思います。私は、自分にはできないんじゃないか、なんて思ったことは一度もない。面白そうって思ったことは、できないかもなんて言わずにすぐに実行した方がいいと思います。やっぱり何かを作ることっていうのは、アイデアが出なかったり、苦しいこともあるけれど、その苦しみの分だけ、楽しみは大きいですよ。
今回のイベントではスケッチがいっぱい展示されているのが見どころです。あとは、フォーンの森のゲートやタシルのお祭り広場など大きなものの展示をたくさんしているので、小さい子から大人までみんなが体感して楽しめるようになっていると思います。24日にはギャラリートークもするので、ぜひ見にきてくださいね。
TEXT:和田愛理