誕生から40年『猫のダヤン』作者・池田あきこ氏に聞いた物語創作の秘訣

『猫のダヤン』は1983年に革小物メーカーのシンボルとして生まれた。絵本の累計発行部数は約320万部、アニメやラジオドラマにもなる人気キャラクターで、2023年には誕生から40周年を迎えた。ふわふわの毛並みに、ぴんと伸びたヒゲ、ミステリアスな大きな目。40年もの長きにわたり、人の心を惹きつけるキャラクターを読者に届け続ける作家の池田あきこ氏に、キャラクターやストーリーづくりのコツ、創作の心構えについてお話を聞いた。

作家 池田あきこ氏プロフィール
1950年東京吉祥寺生まれ。青山学院短期大学国文科卒業後、卒業後読売広告社入社。 革細工教室をしていた母の影響を受け、革工房を立ち上げる。1987年から、不思議な国わちふぃーるどを舞台に『猫のダヤン』の物語の執筆を始める。画集、長編物語、旅のスケッチ紀行など作品は多岐に渡り、出版書籍は100タイトルを超える。

『猫のダヤン』のモデルはうちにいた猫

ダヤンを書き始めるずっと前から、架空の国を自分の中で作っていたんですよ。もともと私は本を読むのが好きでした。小さい頃から、グリム童話みたいなヨーロッパの世界観に憧れていて、独自の世界を創りたい、と思っていたんですね。この架空の世界の『わちふぃーるど』っていう名称は、高校生くらいの時から考えていました。最初はリスみたいな生き物の名前としてポンって浮かんできました。造語だから意味はないですけどね。

『猫のダヤン』を初めて描いたのは、販売用のダヤンのポスターを作るとき。これまで、版画を彫ったことはあったけど、ちゃんと紙に描くというのは初めてでした。

『猫のダヤン』のモデルはうちにいた猫なんです。叔母が拾ってきた猫で、茶と黒の顔の模様がまるで眼帯をしているみたいで。だから、眼帯を付けたイスラエルの将軍、モーシェ・ダヤンにちなんで『ダヤン』という名前にしたんです。うちのダヤンは、柄が特徴的なので、外見を似せることなく、猫の本質からインスピレーションを得て、彼のキャラクターを作り上げました。

みんな私の描いたダヤンを見て、『怖い』とか『冷たい感じ』、『可愛い』とか色んな感想を持ってくれました。それで、このキャラクターが人の目を引くっていうことを確信しました。

ストーリーづくりのキモは骨組みと主人公

ストーリーづくりは、どういう物語にするか、どういう世界観にするかという骨組みをつくることが大切です。思いついた細かい設定や楽しいアイデアを大切にしたい気持ちは理解できますが、まずはストーリーの土台となる骨組みをしっかりとつくること。オリジナリティのある自分だけの骨組みが完成すれば、創作においてそれはもうゴールが見えたようなものです。

次に、誰を主人公にするかを考えます。絵本も小説も同じだと思うんだけど、音楽のように独自のトーンを奏でるものです。「この本じゃなきゃいけない」という魅力を生み出すには、何か特別なものを表現しなければなりません。その独自性を生み出すのはやはり登場するキャラクター、特に主人公だと思うんです。

また、創作は自分の中にあるものからしか生まれません。実際に見たり聞いたりすることは本当に重要です。私は、愛媛県の大洲市でしか観測されない珍しい現象「肱川あらし」をテレビで知って見に行きました。気温や気象など特定の条件が揃わなければ観察することができない珍しい現象で、現地の人と連絡を取り合ってタイミングを合わせました。上流の大須盆地から肱川沿いに霧が流れてくる様子はまるで白い竜が川を下るようでした。

小説『ダヤンと霧の竜』で登場する霧の竜は、この肱川あらしがモチーフになっているんです。それが、作品の中では、ダヤンを狙って街に襲ってくる台風に対抗するキャラクターになっています。霧の竜がそれ一つで出てきても面白くないから、見方を少し変えて、台風と戦わせる対比の構図にしようと考えました。一つの事象をどう登場させるか、より面白くなるよう構成を練るのも、ストーリーを作る上では大事なことだと思います。

「ワクワクすること」がアイデアの源

私は、古い風習の残る世界を創作しているから、現実でもできるだけ古いものの残るところに旅をすることが多いんですね。そうすると、自分の価値観とは違う人たちにたくさん出会うんです。

昔、モロッコで皮をなめしている加工場に行った時に、革を薬液に浸けて、それを足で踏んで革をなめすっていう方法をとっている人たちに会ったことがあって。その人たちは、もう50歳くらいになると、薬液で足の骨がボロボロになってしまって、足を引きずって歩くんですよ。普通は、それでいいの?って思うじゃないですか。でも、その人たちの顔の晴れ晴れと明るいことに驚きました。俺たちはずっとこうしてきた、これからもこうしていくんだっていう、恬として恥じないその姿勢に感銘を受けたんですね。

考えていることや正解はみんな同じじゃないということが、本当に素晴らしいことだと思いました。自分と違う価値観の人が、世界中色々なところにいるっていうことに、本当にワクワクします。そういう、自分がワクワクすることを集めるっていうことがアイデアの源になるんじゃないかと思うんですよね。

創作に必要なものは「度胸」

創作をするときに、自分にはできないかも、なんて不安に思っているようではダメですよ。私は、創作こそ誰にでもできる、って思っています。何せ、考えることにはお金がかからないんだから。私だって、子供の頃に本が好きだったというだけなのだけれど、大人になって、こうして色んなものを作っている。

結局、新しいことに飛び込むときの度胸が一番大切なんじゃないかと思います。私は、自分にはできないんじゃないか、なんて思ったことは一度もない。面白そうって思ったことは、できないかもなんて言わずにすぐに実行した方がいいと思います。やっぱり何かを作ることっていうのは、アイデアが出なかったり、苦しいこともあるけれど、その苦しみの分だけ、楽しみは大きいですよ。

誕生40周年企画展 「猫のダヤン40th タシルの街へようこそ!」について

今回のイベントではスケッチがいっぱい展示されているのが見どころです。あとは、フォーンの森のゲートやタシルのお祭り広場など大きなものの展示をたくさんしているので、小さい子から大人までみんなが体感して楽しめるようになっていると思います。24日にはギャラリートークもするので、ぜひ見にきてくださいね。

誕生40周年企画展「猫のダヤン40th タシルの街へようこそ!」

会期:2024年1月13日(土)〜3月24日(日)
開催場所:郵政博物館
〒131-8139 東京都墨田区押上1-1-2東京スカイツリータウン・ソラマチ9F
TEL:03-6240-4311
休館日:月曜日※祝日の場合は翌火曜日
入館料:大人300円、小・中・高校生150円
※障がい者手帳をお持ちの方と介助者の方は無料となります。
※現在、新型コロナウイルス感染症対策のため団体見学の受け入れを中止しています。

池田あきこ先生ギャラリートーク
日時: 3月24日(日) 13:30~

サイン会
日時: 3月24日(日) 14:00~
定員:100名

オリジナル記念小型消印押印サービス
日時:3月14日(木)
※押印は当日閉館時間の17時30分までです
※切手は各自ご用意ください(63円以上)

TEXT:和田愛理

この記事を書いた人

ライティングに関わる人に役立つ情報をお届け

ライターマガジン編集部

ライターマガジン編集部

ライターマガジン ヘンシュウブ

あなたにおすすめの記事